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2008/04/13

九博『国宝大絵巻展』(前期)

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九州国立博物館前回のぶろぐるぽに参加していただいていました招待券で『国宝大絵巻展』に行ってきました。
主に京都国立博物館に所蔵されている国宝や重文の絵巻が展示されますが、今回の展覧会は前・後期で展示される作品あるいは場面がすべて入れ替わることになっていますので、それぞれを観に行こうという計画です。


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「絵巻、それは日本が誇る絵画と物語の総合芸術」(展覧会のコピーより)
絵と書と表装をそれぞれ当代一流の専門家が仕上げて創り出した絵巻。
掲げられた絵画を複数の人間で眺めるのとは違って、絵巻の1シーン、1シーンを、自分のペースで眺めては巻き取ってと独占して鑑賞するというのは、とても贅沢な芸術です。
絵巻を作らせるのも、所有するのも、極々身分の高い人たちに限られ、それは宝物として秘蔵されたのでした。


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【粉河寺縁起】
紙や絹で作られた絵巻は、100~200年ごとに修復する必要があるのだそうで、今ここに作品が残っているのは、そういった先人たちの努力が積み重ねられてきたからなのです。
この粉河寺縁起は下の方が火災によって焼けてしまっているのですが、その部分が同じ質の紙によって補修されることで、それ以上の損傷の進行が抑えられています。
昨年2007年12月4日にNHKで放送された「プロフェッショナル 仕事の流儀」第70回では、九博で働いておられる文化財修理技術者鈴木裕さんの仕事が紹介されていました。
紙の声なき声を聞いて修復を行い、それをまた100~200年後の次の技術者に託すというお話でした。
修復の跡を残す現物を前にして、より感慨が深まりました。

【白描絵料紙金光明経巻第三(目無経)】
絵巻のコレクターであった後白河法皇の依頼で、源氏物語絵巻が作られようとしていたところで、法皇が死去。
まだ下絵の状態の絵巻の上に、経文が書かれ、供養として奉納されることになります。
人物にまだ目が描かれていないので「目無経」と呼ばれますが、経文の下地にかすかに見える灰色の薄い線で描かれたデッサンは、絵巻の製作過程がうかがえてとても興味深いものがありました。


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【華厳宗祖師絵伝 義湘絵】
新羅の高僧義湘が華厳宗の修行のために唐に留学したときの様子。
高僧の伝記物語は絵巻に多くみられる題材ですが、このお話では、その僧に恋をする善妙というヒロイン(パネルの人物)が登場します。
これまで、九博でも仏教関係の絵をいろいろ見てきましたが、ラブストーリーは初めてです。
しかし、善妙の恋は実ることなく、仏への信仰の道に進みます。
陰ながら義湘の事を思う純愛物語は、義湘との別れの時を迎え、善妙が起こす奇跡でクライマックスとなりますが、このシーンの公開は特別展後期のお楽しみ。
新羅の僧の話だけに、まさに韓流ドラマのようですが、それを観るためだけでも後期にまた来たくなります。

【松崎天神縁起】
山口県出身の私が受験生時代にお世話になった防府天満宮。
その前身である松崎天神の創建の経緯が描かれた鎌倉時代の作品です。
今回の展覧会の入場券には、菅原道真の名誉が回復したことを、道真の子孫が太宰府天満宮で報告しているシーンが使われています。


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【釈迦堂縁起絵巻】
今回の展示の中で、最も衝撃を受けたストーリー。
「縁起」はその絵巻の奉納される寺社の歴史を示すものですが、「自分のところはこんなにすごいんですよ」というアピールが目的の一つとなります。
さて、まだ釈迦が存命中にインドで作られたという生き写しの仏像が中国に渡っていて、これに出会った日本人留学生が、この復刻を作って日本に持ち帰ろうとします。
復刻が完成し、いよいよ日本に戻るという日の前の晩。
な、なんと本物の方の仏像が「日本に行きたい」といって、復刻の仏像と入れ替わってしまいます。(パネルにその衝撃のシーンが!)
そうとは知らない留学生は、本物の方の仏像を日本に持ち帰ってしまいます。
というわけで、「実はうちにある仏像はその本物の方ですよ」という、禁断のアピール。


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【百鬼夜行図】
もうこれはマンガのキャラクターのようです。
ストーリーはありませんが、次々に現れる妖怪たちは、日常の道具に魂が宿ったもの。
荒俣宏先生の『妖怪草紙』によると、道具そのものが妖怪となるのは日本独特のものなのだそうで、西洋の場合は、ポルターガイストという形で道具が動くことがあっても、それは人間の幽霊の力であって、道具そのものが魂を持つというものではないということです。
人工物にも魂が宿ると考えた日本人のメンタリティ。
紙や絹という、か弱い素材でできた絵巻を大切にして千年以上も保存し得たことにも結びついている気がします。

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次第に、娯楽にまで広がっていった絵巻の文化は、
「マンガ・アニメ、それは日本が誇る絵画と物語の総合芸術」という形で、
現在までつながっているようです。

今回の展覧会は展示数は17作品と少ないのですが、1つ1つの絵巻が持つ多面的な価値をじっくり堪能できました。
500円で借りられる音声ガイドはすべての作品に解説があり、作品によっては前半と後半それぞれの場面に解説が付くこともあって、役立ちました。
巻物閲覧シミュレーターのようなものも設置され、巻物が実際どのように観られるのかを体験できてよかったのですが、ブログをずりずりとスクロールしながら眺める感じともちょっと似ていました。
4月29日からの後期も、ぜひ訪れたいと思っています。

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第6回ぶろぐるぽ
にエントリーしました。
会場内の写真は九州国立博物館より提供と掲載許可をいただいております。

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コメント

二つ目草さん、相変わらずの九博ルポ、筆が冴えていますね。
それにしても、国宝の絵巻がずらり、垂涎の展覧会でしたね。
絵巻の文化、確かに現代日本の漫画やアニメへの潮流が感じられますが
ブログのスクロールと共通点を見出される感性は
やはり二つ目草さんならではと、いつもながら感じ入りました。

投稿: 赤か毛 | 2008/04/14 21:14

世界を席捲し続ける、ジャパニメーションの原点がここにある
のですね・・。とは大袈裟かも知れませんが、やっぱり日本人
特有の感性なんでしょうか・・。

全然知らない絵巻ばかりですけど、百鬼夜行図は是非見てみたい
です。あと鳥獣戯画も動物を擬人化した元祖のようなものなので
こちらも是非見てみたい・・。展示されるのかなぁ・・。

投稿: wanwanmaru | 2008/04/15 22:40

>赤か毛さん
美の世界をコンパクトにまとめるのは日本のお家芸というところですね。
書の部分は天皇の手によるものもあり、コレクションするだけではなく、
製作に参加する技量も競ったようです。
後期も観に行くつもりです。

>wanwanmaruさん
登場人物などが生き生きと描かれていて、絵巻を繰る度に移り変わる世界を覗き見るような感覚で、
当時の人にとってはダイナミックに動く絵に見えたことでしょう。
百鬼夜行図に登場する妖怪は、宮崎アニメや妖怪大戦争にも似たようなものが出てきた記憶があります。
鳥獣戯画はまさにマンガの原点といわれている絵巻ですが、残念ながら今回の展示には含まれていませんでした。
ショップの方には、なぜか鳥獣戯画を題材にした商品がたくさん出されていたのですが。

投稿: 二つ目草 | 2008/04/16 00:18

ご来館ありがとうございます。展覧会をお楽しみいただいている様子がうかがえ、担当者としてとても嬉しく思います。前半に修復の話題がありましたが、ちなみに百鬼夜行図は鈴木裕さんが在籍した工房で、彼が中心となり修復された作品です。現在も良好な状態を保っている作品をみて、文化財を守り伝える仕事の一端を感じていただければ幸いです。

投稿: 九州国立博物館 畑靖紀 | 2008/04/16 19:46

>畑さま
ご来訪ありがとうございます。
ぶろぐるぽへの参加もこれで6回目の皆勤となりますが、いつもお送りいただく特別展の招待状で九博にうかがうのが楽しみとなっています。
NHKの放送で九博での鈴木裕さんのお仕事を拝見し感銘を受けていましたが、今回の絵巻展では、こういった作品が今ここに存在できるのは、これまで何代にもわたって鈴木さんのような仕事をしてきた技術者がいたのだということを知りました。
後期にもまたうかがうことにしていますので、百鬼夜行図はそういった目でじっくり味わって来たいと思います。
もっとも、見ても判らないように、仕事ぶりを残さないのが鈴木さんのお仕事ですが。

投稿: 二つ目草 | 2008/04/16 22:25

二つ目草さんの記事、とても情報量が多くて、読みごたえがありました。絵巻物は地味な展示のように感じていたのですけど、行ってみると、かなり楽しめました。絵巻物はどのように見ていったらいいのかわからなかったのですけど、絵巻物は、開いて見て、巻いて伸ばして見ていくということを意識して見るといいと、夏目房之助さんが言われていたのを聞いて、なるほどーと思いました。

投稿: Jun Rajini | 2008/04/19 01:40

>Jun Rajiniさん
夏目房之助さんの講演を聴かれたのですね!うらやましいです。
私は夏目さんのファンなので、夏目さんのブログを登録して読んでいるのですが、そこで講演の事を知った時にはすでに遅しで、参加できませんでした。
登場人物の視線の先に何が現れるのか、わくわく感を楽しむのが絵巻だということなのですね。
今回は例の双眼鏡を持って行かなかったのですが、後期は持って行くことにします。

投稿: 二つ目草 | 2008/04/19 06:34

今日(日曜日深夜)の24時30分からRKBテレビの「元気by九州」に畑靖紀さんが出演されるそうですよ。
http://www.rkb.ne.jp/genki/index.html

投稿: Jun Rajini | 2008/05/11 22:39

>Jun Rajiniさん
情報ありがとうございます。
録画予約セットしました。
楽しみです!

投稿: 二つ目草 | 2008/05/11 22:45

>Jun Rajiniさん
畑さんのお姿拝見しました(^^)
来週、後期を観に行く予定にしています。

投稿: 二つ目草 | 2008/05/12 01:03

10分くらいの短い番組だったですね。
土曜日に畑さんの講演を聞きました。絵巻と屏風と掛け軸の違いについて1時間くらい時間をかけて説明されていました。
昨日の番組では、十数秒で絵巻は手にとって動かして見るものだ、とコンパクトに説明されていました。絵巻はアルコールで清めた素手で取り扱うのが一番安全だと聞いて、なるほどーと思いました。

投稿: Jun Rajini | 2008/05/13 01:21

>Jun Rajiniさん
短い番組でしたので、もう少し長くお話しを聞きたかったです。
1時間の講演を聴講されたというのはうらやましい。

実際に絵巻を手にとって見ることのできたのは、
とんでもなく特権階級にいた人たちだったのでしょうね。
素手が安全というのは意外でした。

投稿: 二つ目草 | 2008/05/14 04:08

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