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2008/05/18

九博、大絵巻展(後期)とバックヤードツアー

九州国立博物館の『国宝大絵巻展』(後期)を観に行ってきました。
前期の様子はこちらから

後期の注目作品は、【華厳宗祖師絵伝 義湘絵】の後半クライマックスシーン。
唐に留学していた新羅の僧義湘が帰国することになり、別れを悲しんだ善妙は荒海に身を投じ、
龍となって、義湘の船を安全に送り届けたのでした。
帰国を知って子供のようにジタバタ泣き叫ぶ善妙の姿や、入水する時の恍惚の表情がよく描かれています。

似たようなシチュエーションながら、正反対の結末を迎えるのが、
能や歌舞伎で有名な安珍・清姫伝説を元にしたストーリーの【日高川草紙】。
賢学という僧が、長者の娘花姫と一夜の契りを結びます。(ここが義湘とは違ってます。)
賢学はやはり仏の道を選ぶといって花姫に別れを告げますが、
これを恨んだ花姫は蛇になって賢学を追いかけ、
寺の釣り鐘の中に隠れた賢学を捕らえて、一緒に水に沈みます。
絵では蛇ではなく、人面の龍として描かれているのですが、その顔の恐ろしいこと。

Backyard00

Backyard01

ところで、今日はいつもの天満宮経由ではなく、九博通りを通って博物館に行ったのですが、
途中に藍染川という小さな川があり、中に碑が建っていました。
ここは、能「藍染川」の舞台となった場所です。
京に単身赴任した太宰府天満宮の神官が、京女梅壷と恋仲になり子供までもうけます。
太宰府に帰った神官を追いかけてきた梅壷は、神官の妻に責められ、藍染川に身を投げます。
哀れに思った神官が祈ると、天神様が現れて梅壷が生き返るというお話しです。

以上、神仏に使える者と女性との悲恋物語3題でした。

【泣不動縁起】は、師匠の病を治すため、その弟子が陰陽師安倍清明に頼んで、
病気の虫を自分に移してもらうというかなり面白いストーリー。
身代わりになって病に苦しむ弟子の姿を見かねて、不動明王がさらにその病を引き受けることになります。
絶命した不動明王は地獄に連行されることになるのですが、地獄ではそんな位の高い仏がやってきたことに驚き、
閻魔大王もひれ伏して詫び、不動明王は解放されます。

後期展は、興味がそそられるストーリーに、完成度の高い絵が付けられた、今見ても楽しめる作品が多いようでした。

Backyard02

さて、今日は国際博物館の日。
博物館の機能は、展示、保存、収集の3本柱なのだそうですが、
会場では文化財保存修復学会第30回記念大会が開催されており、
日本の文化財を守っている方々が大勢来ていました。
一般の人に混じって特別展を観覧されている人の会話が漏れ聞こえてきましたが、
見る目の違いや、業界裏話を密かに楽しみました。
メインエントランスには研究発表のポスターが展示されていました。

Backyard03

大会に合わせて行われたバックヤードツアーに参加し、博物館の舞台裏を見ることができました。
バックヤードツアーは毎週日曜日に行われていますが、今日はその特別版です。
まずは、建物の横の階段を上って、2階床下に入ります。

Backyard04

ここは免震層になっていて、ゴムやダンパーが2階以上を支え、地震から文化財を守っています。
実際、博物館が開館する約半年前の2005年3月20日に起きた福岡県西方沖地震では、
この辺りは震度4強を記録しましたが、震度2で停まるようになっているエスカレーターは、
1~2階のものは停止したものの、免震層より上にあるエスカレーターは停まることはなかったそうです。

Backyard05

3Dスキャナーで取り込んだデータから複製された三角縁神獣鏡のレプリカを手に取ってみます。
銅鏡は、鋳造にもかかわらず驚きの薄さで、当時の技術の高さを実感できます。

Backyard06

日本に唯一の文化財用のCTスキャン。
ここにしかないので、全国から重要な文化財が、調査のために太宰府に運ばれてきます。
博多にある善導寺の大師像をスキャンしたところ、頭部の中に2本の歯が見つかったそうです。
大師の歯なのか?でも1本は子供の歯だとか。

Backyard07

一番見たかった文化財保存修復施設に、今日は特別に室内まで入れていただきました。
前回の九博の記事でも書いた、文化財の修理をする技術者たちの仕事場です。
そこで働くのは国立博物館の職員ではなく、外部から来ているプロフェッショナル集団なのだそうです。
4部屋ある一番手前では、修復のための紙を漉いておられました。
虫食いの形をスキャンして、その1つ1つの形に合わせた補修紙をつくって、穴を埋めていくのだそうです。
2番目と3番目の畳敷きの部屋では、古文書や絵画の修復が行われていました。

4番目の部屋は、岡倉天心が明治31年に創設した「日本美術院」の国宝修理部門を起源とする伝統ある彫像修復チームの仕事場です。
修理中の不動明王像は、胴体から頭部や腕が外され、頭部と胴体は左右に真っ二つに分解されていました。
元々は青く彩色されていた体は、長い間その前で護摩が焚かれたため、真っ黒に煤けていますが、
これを青色に戻すのではなく、これまでの歴史を込めた現在の姿を後世に引き継ぐように修復するのだということでした。

Backyard08

建物の中心部の、紫外線や熱、湿度、地震、カビや害虫、盗難などから守られた場所にある収蔵庫。
博物館は、日本の宝を守る現代の正倉院なのだなあ。

Backyard09

その正倉院で宝物を守るのに使われていた文化財の害虫をガスで燻蒸する機械。
日本で最初に作られた記念すべきものだそうです。
現在は、窒素ガスで駆除する方法に変わり、使われなくなりました。

九博には何度も通っていますが、今まで知らなかった場所に入り、改めて博物館の働きを知ることができました。

4階文化交流展示室では、6月22日まで特別陳列として「博物館と文化財修理」が展示されており、
実際の修理の経緯と成果をうかがうことができます。
得るものの多い一日でした。


第6回ぶろぐるぽ
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コメント

はじめまして、九博の記事読ませていただきました。
バックヤードツアー、面白そうですね!
歴史を刻んできたものたちが、最先端の技術で守られているんですね~ すごいな~!
当時の仏像を造った人たちは、CTスキャンでおなかの中を見られるなんて、思ってもいなかったでしょうね。
後期はまだ行っていないので、行ったら是非4階の展示室も見たいと思います。

投稿: いでさつ | 2008/05/21 09:36

>いでさつさん
はじめまして。
ようこそいらっしゃいました。
バックヤードツアーは毎週日曜日に行われていますので、
一度参加してみられてはいかがでしょう。
http://www.kyuhaku.jp/visit/visit_info05.html
博物館の日ごろ見ることのできない機能を知ることができます。

大絵巻展の後期は、何と言っても義湘絵のクライマックスシーンが見ものですが、日高川草紙と比較をすると面白いです。
九博通り経由で藍染川も寄られると、三部作として楽しめますよ。

投稿: 二つ目草 | 2008/05/21 20:39

二つ目草さん、こんにちは。
このバックヤードツアー、アップされたときから、かなり注目していたのですが
なかなかじっくりと鑑賞させていただくゆとりがなく
今日じっくりと拝見しました。
いやー、圧巻でした。
実は知人がこの関係の仕事をしていて、この学会に参加していたのでは、と思います。
ひょっとして、二つ目さんと遭遇していたかも知れませんね。
国宝の絵巻、見てみたいです。東博にも来ますように!

投稿: 赤か毛 | 2008/05/28 12:44

>赤か毛さん
実は、前回絵巻展の前期を観に行ったときに通常のバックヤードツアーに参加するつもりでした。
日曜日に行くつもりが、都合で土曜日になったために、受付で
「土曜日はやってないんですよ~」といわれてがっかりしたのですが、
ケガの功名で、今回のこの特別なバックヤードツアーに参加できたのでした。

以前赤か毛さんの身近な方が文化財保存のお仕事をされているとうかがっていましたので、
きっとお見えになっているのだろうなと思いながら会場を巡っていました。
これだけ多くの人が文化財保護のお仕事をされているのかという感慨もありました。

投稿: 二つ目草 | 2008/05/28 20:22

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