『美しき九州の旅』吉田初三郎展
いのちのたび博物館の『美しき九州の旅-「大正広重」初三郎がえがくモダン紀行-』に行ってきました。
吉田初三郎(1884-1955)の名前は知りませんでしたが、「初三郎式鳥瞰図」と呼ばれるパノラマ地図は、子どもの頃から何度か観る機会があり、その世界に魅了された覚えがあります。
今回の特別展では、生涯2000点以上の鳥瞰図を制作したとされる初三郎の作品の中から、北部九州のものを中心に、都市図や鉄道沿線図、観光図が数多く展示され、初三郎と九州の観光開発との関わりも解説されています。
幸いなことに、この展示の企画にも関わられ、作品の多くを所蔵されている初三郎研究家の益田啓一郎氏のギャラリートークにも参加でき、約1時間にわたって詳しい解説を受けながらの観覧となりました。
ギャラリートークは本当は30分間の予定でしたが、講師の解説に熱が入り、参加者からもいろいろな質問があって、とても有意義でした。
初三郎のパノラマ地図は、全国各地のものが作られています。
その地図のテーマとなる地域は中心に据えられて、ストリートビューのように細部にわたって描かれますが、そこから超広角レンズで覗いたようにグワッとデフォルメされた地図は、辺縁の方ではスペースシャトルから地球を見たように遠景が描かれます。
例えば「小倉市観光鳥瞰図」(昭和25年)では、画面中央には海から見た詳細な小倉の街が描かれますが、その奥から右端にかけては、遠く九州全域が見渡せ、さらに左手から奥に至っては、関門海峡から瀬戸内海、東海道の富士山まで見えています。
現代の我々が見ても、イマジネーションが膨らむ地図となっていますが、空撮や宇宙からの映像の経験のない当時の人たちにとって、この視線は大変魅力的であったはずです。
今なら地図データをコンピューターで3D処理して作るのでしょうけれど、あの時代に、初三郎はどうやって鳥瞰図をつくることができたのか、講師の益田さんにお伺いしたところ、後期には地形図を利用したようだけれど、基本的には現地に赴いて描いたスケッチを元に、それが上空から見たらどうなるのか初三郎の頭の中で描かれたイメージを、鳥瞰図として具現化しているのだそうです。
ご回答のなかで、「まぼろしの邪馬台国」で宮崎康平氏と歩かれた奥様から益田さんが直接聞かれたお話として、その奥様も、各地を歩くうち地形図を見るだけで鳥瞰図として地形を思い浮かべることができるようになったというエピソードも紹介いただきました。
益田さんもご自身で鳥瞰図を作成したことがあるとおっしゃっていましたが、そういえば私もQuickTimeヴァーチャルリアリティを利用したパノラマ写真を作ったことがありました。
今回の展示では、いくつかの原画も出品されていましたが、絹に岩絵の具という日本画の手法に、アクリル絵の具やポスターカラーなども使われ、幅は3mを越えるものもあって意外に大作です。
依頼主のところで額装されて飾られていることも多かったようで、日焼けしてしまっているものもありましたが、「若松市鳥瞰図」(昭和8年)などは、巻かれて保管されていたため保存状態がよく、鮮やかな海の青や淡い遠景のグラデーションが残っていて、美術品としての価値も感じられました。
今回、事前にJun Rajiniさんのブログ『福岡発アジア映画行き』の記事「吉田初三郎さんのパノラマ地図、ご存じですか。」
を読んで、ギャラリー用双眼鏡も持参していましたので、初三郎ワールドに足を踏み入れる感覚で、「若松市鳥瞰図」を覗くと、若松バンドや若松駅の石炭積み出し場など戦前の若松をそぞろ歩くことができました。
外国人にとっての日本のイメージ「フジヤマ・サクラ・ゲイシャガール」の元となったのが初三郎が鉄道省国際観光局の依頼で作られた観光ポスターであったり、別府温泉や菊池渓谷の観光開発に関わったり、そもそも「観光」という言葉自体、初三郎によって広まったということも知りました。
資料収集の旅を絵巻物風の絵日記として記録に残していますが、これも今ならブログとして人気を呼びそうなものでした。
1,200円の図録も買って帰りました。
サイズの関係で、地図の細かな部分までは読み取れませんが、これもどのページを見ても楽しく、これから何度も繰り返し眺めることになりそうで、お買い得です。
この特別展は、残念ながら次の日曜で終了です。
お急ぎください。
最近のコメント